第4章 ナナ

 
 

ナナは実家で飼っているビーグル犬である。先にも話したように、豆柴の変わりに実家にやってきた犬である。ビーグルはよく吠えるので近所とトラブルを起こす犬種でもある。本当に、ビーグルは飼うことはないだろうなあ・・・と思っていたのになぜか飼っている。ナナはビーグルの標準(スタンダード)と言われるものを満たしていない。しかし、購入したペットショップのオーナーは血統書があると言い、そして登録料は3万円と言った。

「この犬、スタンダードじゃないですよね・・・」

「犬のことよく知ってるみたいですね」

『登録料3万??』・・・血統書は破棄となった。

もし、血統書付の犬を希望するなら勉強しておかないといけない。その犬種のスタンダードと血統書の見方、いいかげんに高い値段で売られ、いらないお金を払わずにすむ。買う側の知識が上がって、その犬を持つ意味がはっきりすれば、日本でのその犬種は確立されていく。

ナナは父親と目が合った犬なので、血統書もいらないし、繁殖させるわけではないので、スタンダードを気にすることもない。ナナはナナ。

 

はなが名古屋に来た次の土曜日、はなを連れて実家へ行った。妹と同じように家族は太い足をしたはなを見ると触らずにはいられないようだった。 実家のビーグルとの対面も果たした。犬はメス同士、オス同士のほうが順位争いが激しいので早く2人を会わせたかった。最終的には、はなは50kg弱になり、ナナ10kgである。けんかになれば、 ナナはひとたまりもない。

ナナは、はなの名古屋での暮らしの師匠となった

まだはなが子犬と言うことでナナはすんなり受け入れた。犬同士の挨拶の仕方を知っているはなが上手に挨拶したことも大きかったと思う。

ナナにも大きな変化があった。1頭飼いのナナは3才になるが、いつまでも子どもっぽかった。けれども、はなと遊ばせるほどに落ち着きを見せてきて大人になっていった。きっと子どものはなを見て母性本能が出たのだろう。

子犬の初めての散歩はなかなか歩かなくて困ってしまうものなのだが、ナナが先を歩いてはなはその後を一生懸命ついていって、驚くほど簡単に散歩にもなれた。

ナナは散歩以外にはどこにも行ったことはなく、この夏初めて川へ行った。はなは休みの日はほとんど毎日川で遊んでいたのでどこの川もお手のもの。川が初めてのナナは、はなにからかわれながら恐る恐る水に入った。最後には川を泳ぐまでに慣れた。犬は3才になっても新しい経験をして、どんどん大人になっていく。

一日で深いところまで行けるようになった

2人を一緒にしておくと、ときどき ナナがひどく吠える。見に行くとはなは伏せの格好で頭を地面い付けて小さくなり、ナナがその前に立って吠えていた。何かはながはめをはずしたのだろう。叱られていた。これはマラミュートとかの問題ではなく、はなの持っている争わない気質が大きい。

はなの母親は同時に生まれた乳の出ない母親の子犬にもらい乳をさせたほど優しい母親である。はなのおばあちゃんにあたる犬はけんかを避けるためにほかのメス犬が出ているときは犬舎にいる。この気質がナナをいつまでも上と見て従っている背景だろう。

そんな2人に事件がおきた。弟が久々に帰ってきて2人と遊んだとき、どちらが先に挨拶をするかの争いが起こった。はなは先に行くつもりはなかったのだろうが、体の大きさが違うのでどうしてもナナより先に弟に触ってしまう。はなはときどき怒られてナナに噛まれてけがをしていたが、その時もナナが何かをしたらしい。

はなが本気になってしまった。

弟の静止も聞かず、ナナに襲い掛かるはな。 やっとの思いで2人を引き離したとき、ナナは完全服従姿勢の腹だしで上を向いていた。弟の『ナナ!大丈夫か!!』の声虚しく、放心状態のナナはそのままの姿勢で横になった。

ナナにけがはなかったが、本気になったはなの迫力に精神的ダメージを受けたようだった。その日、2人の間には物理的な距離があった。 この話を聞いて、もう一緒にするのは無理かと思った。ナナが危ないので実家には連れてこないほうがいいと判断し、次に実家に行ったときはなは家で留守番させた。 わたしの車の音にナナは喜んでないたが、はながいないことを知ったナナは怒って吠えまくった。

『連れてきていい?』

 

今では2人には4倍の体の差があるが、やっぱりはなは ナナの後ろを歩いている。