表向きな目的はこぼをショートレーニングに出すためだった。
こぼが来て3ヶ月くらいたった頃、私はだんだん辛くなり始めていた。
こぼはブリーダーの家で生後5ヶ月まで暮らした。私と同じ境遇のブリーダーは仕事に出かける間こぼたち子犬をデイケアサービスに預けたりパピー幼稚園に連れて行ったりして子犬と時間の取れない分、社会性を保つためにいろいろ努力をしてくれていた。
日本に来てこぼはすんなりはなたちとの仲間に入り、一緒に遊ぶ毎日だったが14時間ほど家を空ける私との暮らしにこぼが寂しそうに見えるときがあった。
はなも・・・サラも優もそうだったんだろうが最初からその環境だった彼女たちには比べる先がない。しかし、こぼは5ヶ月までの生活が人と犬の中にいた。比べる先を持っている。こぼはフェンス越しになでてくれる人を待ち、人影があると人が通るところへ走っていった。そんな姿を何度も見た。
それでも私は家を空けないといけなかった。
張り裂ける思いの中、こぼをショーに出すためにトレーニングが必要かもという思いもあり信頼できるハンドラーさんのところに預けよう、という気になっていた。こぼはショーマナーのかじりを既に覚えていたので私が仕上げてわざわざトレーニングに出す必要はなかったのかもしれない。しかし、大きいところに出せばアシスタントの人もたくさんいてこぼはきっと相手してもらえるだろう・・・男の人と平然と接しられる経験にもなる。
こぼをハンドラーに預けるという話しはCarmenにも伝えた。彼女はハンドラーの中には犬をラフに扱う人もいるからとハンドラーのこぼの扱いを心配した。その時点で私には何も確信するものがなかったのでダメそうだったら預けないという約束だけをした。
私にははひたすらこのまま犬だけで暮らさせてCarmenが育ててくれた彼のキャラクターを潰してしまう恐怖だけがありトレーニングに出すことを推し進めた。
前日の夜、こぼだけを連れ出し岡山に向かった。初めての1頭と1人の旅となった。